その方は、いつもお顔を出されてもすぐにご自分のお部屋に戻られるか、
広いホールの真ん中で、難しそうな表情で、
おひとり静かに本を読まれてるのが常でした。

今日は初めて、ヘルパーさんに付き添われ、輪の中にいらっしゃいました。

体を動かすヨガの前に、
ご自分の呼吸を意識していただくため発声練習から始めます。
その時、
その方の落ち着いた眼差しの向こうに、なにかしら光が差すのを感じました。

その後は私に集中し、声に合わせ動きを追っては、
無表情ながらも体を動かして応えてくださいました。


30分の椅子ヨガが終わった後、
離れずその場にいらしたのでご挨拶しました。

「思い出して嬉しかった」、と、ぽつり。

始まりの発声練習です。

「アイウエオじゃなかった。
そう、アーエーイーオーウー、これでした。

音楽の先生がいつも教えていました。
すっかり忘れて、もう思い出しもしないこと、

嬉しかった。
昔のこと、今日は思い出しました。」

そうおっしゃって目を弾ませていらっしゃいました。
その方は、中学校の校長先生をされていた93歳のおじいさま。






「何食べたかなー」
「なんだったかな―、」

たぶん1時間ほど前にお昼ご飯を召し上がったことでしょう。

テーブルの上に、献立表が置いてあったので、手にして一つずつ読み上げてみました。

「そうそう、ごぼうとにんじんのきんぴら!」
「おいしかったー」

「食べたものすぐ忘れる」、とニッコリ。

「息子と娘もきんぴら好きだったよ-」

「辛い、とか甘い、とか言ってー」
「わいわいみんなで食べるのがいちばんおいしかった」

「昔はよく料理したー、いろいろ作った-」
「たくさん作ったよ-」

「いま、もう作らない」
「わたしのお台所ない-」

淋しそうにも、でもチャーミングな笑顔を見せてくださった85歳のおばあさま。






「また絵、描いているよ」

「でもすごくめんどうー」

どうされましたか?と尋ねると、

「だってアジサイ」

クスッと笑ってしまった。

お花が一つひとつ小さいですものねー、と私。

「そう、そうなのー そうなのー」

「だからめんどうー」

イタズラっ子の目をして微笑むおばあさまは先月99歳を迎えられました。

車椅子を少しずつご自分の足で動かしながら、
絵がいっぱい飾られたご自分の部屋に戻って行かれました。



人生の中で積み上げてきたものをだんだん忘れていってしまっても、
体が思うように動かなくなってしまっても、

それぞれの人生の宝ものが大切にされる社会でありますように。
大切にできる自分自身でいたい。


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